カロリーゼロって言ったやつ、今すぐ出てこい。

「カロリーゼロです」
その一言に、どれだけの人が救われ、そして裏切られてきたことか。
僕もそのひとりだった。
大学生のころ、毎日ファミマで買ってたゼロコーラ。
お菓子と一緒に買っても「これはゼロやからノーカン」って、勝手に心の中で帳消しにしてた。
“ゼロ=完全に無い”って、思っていた。
ところがある日、何気なくペットボトルの裏を見て──目が点になった。
エネルギー:0kcal(※栄養成分表示基準による)
ん?
なんか“※”ついてるんやけど。
ゼロって言いながら、どういうこと?
「ゼロじゃないけど、ゼロってことにしといて」っていう裏の意図を感じるやん。
これって、騙されたってこと?
でもパッケージには確かに堂々と「ゼロ」って書いてある。
──これ、いったいどういう仕組みなん?
「カロリーゼロ」って、どういう意味なん?
まずはここ、しっかり押さえとこう。
日本の食品表示制度では、「100mlあたり5kcal未満」であれば、“ゼロ”と表示してOKとされてる。
これは消費者庁の「栄養表示基準制度」というルールに基づくもの(2003年改正、現行制度)。
つまりゼロコーラを500ml飲んだ場合、理論上は最大25kcal入ってる可能性がある。
ゼロちゃうやん。
白米一口分やん。
しかも、「オフ(低い)」と「ゼロ(無い)」って、言葉の差以上に心理的影響がでかい。
「オフ」って書かれてると人は“まだある”と感じる。
でも「ゼロ」って見た瞬間、“完全無欠”を想像してしまう。
ちなみに、カロリーオフは「100mlあたり40kcal未満」なら表示OK。
ゼロの方が断然クリーンな印象を持たれやすいんよな。
言葉って不思議や。
ほんの数キロカロリーでも、名前を変えるだけで、罪悪感がグッと減る。
──そして僕らは、カロリーじゃなくて「言葉」に騙されていく。
嘘ではない。けど──それ、ズルくない?
たしかに、これはルール上“合法”な表示や。
ゼロって書いてあっても、実際にちょっとカロリーがあっても、法律的にはOK。
でも、それって……気持ち的にはアウトちゃう?
たとえば、誰かがこう言ったとする。

今月、甘いものゼロやで
こう言うやつに限って、
会社でもらったチョコを“ひと口だけ”、コンビニで“糖質オフプリン”を夜に1個。
いや、それゼロちゃうやん。
“ゼロのふりした微糖生活”やん。
──カロリーゼロも、それとおんなじ構造や。
“ちょっとだけある”ものに、あえて「ゼロ」と名づけることで、
人の感覚をごまかしていく。
これはもう、言葉の力を使ったマーケティングの勝利やと思う。
実際、ゼロ表記の商品が売れ出したのは、2000年代中盤以降。
各社が健康志向の流れに乗って、こぞって“ゼロ”のラインナップを増やした。
つまり、「ゼロ」って言葉そのものが、商品としてブランド化されてる。
ちょっとだけ入ってても、ゼロって書くだけで売れる。
これ、もう“ゼロビジネス”や。
虚無のようでいて、実はめちゃめちゃ計算され尽くしてる。
「ゼロ」って言葉、信用できんくなってきた件
・カロリーゼロ
・糖質ゼロ
・脂質ゼロ
・アルコールゼロ
・プリン体ゼロ
──君たちは本当にゼロなんか?
「“無”のくせに、商品棚を独占してる奴ら」、それが“ゼロ系”の面々や。
飲み物に限らず、アイスやゼリー、お菓子、ヨーグルト……
どこを見ても「ゼロ!ゼロ!」の大合唱。
でも、パッケージの裏側を見ると、こう書いてある。
エネルギー:4kcal
糖質:0.4g
脂質:0.1g
……いるやん。
ちょっとずつ、ちゃんといるやん。
ゼロを名乗ってるのに、ちょっとずついる。
もう、あれや。「合コン来たけど彼氏います」みたいな状態や。
さらに言えば、“ゼロ”にすると、味の違和感が出ることもある。
人工甘味料を使ってる商品が多くて、
「なんか独特の甘さがある」って気づいたことない?
カロリーの代わりに“なかったことにしたい”人間の願望が詰まってるんやと思う。
でも、ちょっとだけあるからこそ、成立してる気もする
完全にゼロやったら、たぶん僕ら、満足できへんのやと思う。
ゼロカロリー飲料って、ちゃんと甘いやん?
なんでやろなって思ったら、ほとんどのゼロ飲料には人工甘味料が使われてる。
アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK……
聞き慣れない名前のやつらが、ちゃんと“甘さ”を演出してくれてる。
つまり、“カロリーはゼロやけど、味はゼロじゃない”。
そこがゼロ飲料の最大の魅力であり、最大の錯覚でもある。
でもさ、考えてみたら、人間の関係もそうちゃう?
「もう連絡とらんって決めた」って言いながら、
相手のSNSをこっそり見てしまう夜がある。
「別にもう好きちゃう」って言いながら、
誕生日だけは、なんとなく覚えてる。
そういう、“ちょっとだけある”っていう曖昧さに、
人って、救われてるのかもしれへん。
全部ないより、ちょっとだけあるほうが、なんか落ち着く。
本当の「ゼロ」は、むしろ怖い。味気ない。
そう考えたら、カロリーゼロ飲料って、
人間の弱さに寄り添った飲み物なのかもしれんな。
カロリーゼロ、それは「甘い嘘」
たぶん、僕らは“完全なるゼロ”なんて、求めてないんやと思う。
だってほんまにゼロやったら、
「味も、感情も、余韻も、なにひとつ残らへん」やん。
人は、ほんの少しだけ“なにか”がある状態に安心する。
ゼロカロリー飲料も、
見た目はストイックやけど、ちゃんと甘い。
気持ちを裏切らない、けどちょっとだけ騙してくれる。
それって、なんか人間関係に似てる。
「あなたのことはもう何とも思ってません」
って言ってたのに、
手紙の最後に「体に気をつけてね」って書いてあるような。
──その“ほんの少しの優しさ”に、僕らはやられてしまう。
だから僕は、今日もゼロコーラを買う。
「ゼロ」って書いてあるけど、ほんまはゼロじゃないことを知ってて、
それでも、甘さにちょっとだけ安心したくて。
ゼロって、やさしい嘘やな。